2018年度 志賀直哉旧居特別講座 

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2018年度 志賀直哉旧居特別講座 概要

 

          志賀直哉旧居特別講座 2018 白樺サロンの会(全 8 回) 概要 
                          咲く花の薫ふがごとく奈良浪漫、逍遥、思索
                                         時間 : 1030分〜12(一部、午後2時〜330)


1回《会津八一『南京新唱』の世界》日時:521日(月)10:3012:00講師:柏木隆雄 大手前大学前学長 大阪大学名誉教授

明治初年の廃仏毀釈運動により、多くの寺が荒廃することになる。とりわけ奈良の古刹は甚大な影響を蒙った。折しも早稲田中学の英語教師であった会津八一は遠く奈良を訪れ、彼の愛する『万葉集』の世界が眼前にあり、しかも時には由緒ある古仏を僧自ら焚き物にする姿に暗涙を催す。大正13年の『南京新唱』発兌当初はほとんど顧みられない歌集だったが、今や古都奈良を巡る人たちの必携の書となっている。八一に私淑、親炙した吉野秀雄はまた新しい感性で奈良を歌った。二人の師弟の人と仕事を振り返って、奈良の古刹の魅力を再確認したい。


2回《柳宗悦と志賀直哉の美世界における文化として
日時:618日(月)10:3012:00講師:呉谷充利 建築史家 相愛大学名誉教授

「民藝」という言葉は、柳宗悦が大正15 1月河井寛次郎、濱田庄司と共に高野山西禅院に宿を取った時、生まれる。柳は、名もない日常の雑器に新たな美を見出して、無心の作にこそ、もっとも深い精神性が宿っているとし、「喜左衛門井戸」(大徳寺孤蓬庵)茶碗に作為を超える美の一世界をたしかめている。志賀直哉もまた「救世観音」(法隆寺夢殿)について「作者というものは全く浮んで来ない」と書く。柳と志賀のこの美意識について民族と世界の視点から、文化の固有性と文明の普遍性を交えて、考えてみたく思います。


3回《志賀直哉が夏目漱石から引き継いだもの》日時:716日(月・祝)10:3012:00講師:武田充啓 奈良工業高等専門学校教授

志賀直哉は夏目漱石が追究した〈自己〉の問題を彼なりに引き継ぎ、それを問題化した作家であると考えています。では、直哉はその〈自己〉の問題をどのように漱石から受け継ぎ、どう発展させたのでしょうか。漱石文学の二つの大きな核となる思想である「自己本位」と「則天去私」の視点から、『佐々木の場合』を中心に直哉の作品を読み、考察してみたいと思います。


4回《アルベール・カミュの『カリギュラ』——戯曲と演出》
日時:820日(月)10:3012:00講師:東浦弘樹 関西学院大学教授

ノーベル文学賞を受賞した20世紀フランスの文学者で、『異邦人』、『ペスト』、『転落』などの小説で知られるアルベール・カミュは、劇作家・演出家でもあり生涯を通じて演劇人でした。1945年に初演された『カリギュラ』は、カミュの「不条理の連作」の一つに数えられる傑作戯曲であり、興行的にも大成功を収め、主役のローマ皇帝カリギュラを演じたジェラール・フィリップを一躍スターダムにのし上げました。カミュ研究者であると同時に劇作家・役者であり、演劇ユニット・チーム銀河を主宰する東浦弘樹がこの作品を文学と演劇の両面からわかりやすく解説します。


5回《銅像はだるまさんなのか?》
日時:917日(月・祝)14:0015:30午後)講師:平瀬礼太 美術史家

不易と思われながらも、社会の急激な変化に鋭敏に反応してしまうのが銅像である。戦時の金属回収で供出の憂き目に会い、それでは終戦で安息の地を得たかと言えば、連合国が眼を光らせる中で撤収される。それでも新たに格好の場所を獲得して屹立するかと思えば、また引き倒される。最近でも、アメリカにおける南北戦争関係の銅像撤収騒動は大統領のコメントまで寄せられ、北朝鮮では銅像ビジネスが外貨獲得の有効な手段となっている。旧時代の遺物の感を強く匂わせながらも、権威の象徴として生き続ける、そんなしぶとい存在に焦点を当てる。


6回《絵本に見る表現の多様性~〈ブラティスラヴァ世界絵本原画展〉から~》
日時:1015日(月)10:3012:00講師:飯島礼子 奈良県立美術館主任学芸員

子どもから大人まで誰もが楽しめる絵本。その絵本を構成する上で大きな役割を担う「絵」には、作者の様々な工夫や試みが込められ、高い芸術性を備えたものも数多く存在します。この講座では、奈良県立美術館で開催されている「ブラティスラヴァ世界絵本原画展BIBで出会う絵本のいま」の見どころを紹介するとともに、多様性に富んだ絵本の表現について解説します。


7回《太宰治「ろまん燈籠」創作と典拠の間
日時:1119日(月)10:3012:00講師:吉川仁子 奈良女子大学准教授

太宰治は、エッセイ「如是我聞」(『新潮』昭和23357)の中で、志賀直哉への激しい批判を繰り広げています。そのように〈対立〉という形で志賀と縁のあった太宰治の「ろまん燈籠」(『婦人画報』昭和151216136)を取り上げます。この作品は志賀批判とは関係なく、ロマンス好きの5人兄妹が登場し連作で一つの小説を作り上げていきます。兄妹が書き継ぐラプンツェルの物語を追いながら、創作と典拠の問題を考えてみたいと思います。太宰の自在な物語のありようを楽しんでいただきたいと思います。


8回《時間と生命》日時:1217日(月)14:0015:30午後)講師:橋元淳一郎  相愛大学名誉教授

物理法則の中に、過去と未来を区別するものはなく、流れる時間という概念もありません。それにもかかわらず、なぜ我々は時間を過去から未来へ流れるものと認識するのでしょうか。古今の哲学者たちを悩ませてきた時間の矢の問題を、生命とイリュージョンという観点から探ります。

講座への案内
 万葉集に記された天平元年(729年)の小野老の歌「あおによし奈良の都は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり」、1200年を優に越える歳月に、なお往都は堂宇に生ける美を宿し、訪れる人々にいいようのない安らぎを与える。近鉄奈良駅の階段を上がると行基菩薩の像、登大路の先に柔らかな若草山、歩けば神鹿の遊ぶ公園がつづく。駅を降りて広々と広がるこの風景は他の都市にはない。四季の自然に古代の白眉、春日山原生林がわれわれを包み、南都(南京)の美が迫る。廃都の美がわれわれに問いかけるもの、それがさまざまであるにしても、われわれはいつしか詩のごとき古都の地で雑踏に隠されていた自らの姿とふと向き合っている。古都の逍遥からさらに思索へと歩んで美や文学、今日の文明について考えてみたいと思います…。

 


2019年度志賀直哉旧居特別講座

平成三十一年(二○一九)度 志賀直哉旧居講座紹介

                       古都の美、サロンのひととき

時間 : 10時30分〜12時(一部、午後2時〜3時30分) 日程 各月第三月曜日

この地に、古代の白眉が優に千年を越えて伝わり、近代に脱俗の場所として画家や作家が住み着いた。伝わる美の世界は歴史を越える普遍的な人間の意味を、静謐なその地は、深い思索をわれわれに与える。奈良高畑に残された有形、無形の遺産を継承して、芸術、文学、さらには文明への思索…。たぐいまれな歴史の地から知の世界へ・・・思索を通したサロンのひととき、しずかな時が古都に流れる。

 

第 1 回《寧楽(なら)の美 —法隆寺五重塔釈迦涅槃塑像—》 日時:5 月 20 日
講師:呉谷 充利 建築史家・相愛大学名誉教授

 屈指の白眉をかぞえる美の世界は、文人のこころを捉えた法隆寺夢殿の救世観音に象徴される人間の淋しさへの慈 愛、さらに新薬師寺や東大寺にみる十二神将や四天王像はこれとうって変わる勇壮な美を見せる。この勇壮な美を決定 づけるものはそれらの彫像の内から、もっと正確にいえば、その深奥から発せられる力の表現にある。これら神将の美 の起源を仏教伝来以前の古代に求め、比類なき表現を見せる法隆寺五重塔の釈迦涅槃塑像を改めて古代益荒男人(ます らおびと)の生を今日に伝えるものとして考えてみたい。慟哭のそれらの像はさながら文字なき古代からの手紙のよう にも見える。「益荒男人(ますらおびと)」の世界を確かめながら、寧楽(なら)の二つの美を探ってみる。

第 2 回《終戦と美術-藤田嗣治と住喜与志の戦後》 日時:6 月 17 日(月)14:00~15:30(★午後)
講師:平瀬礼太 美術史家・愛知県美術館

 陸軍美術協会の主要メンバーとして共に戦時を生き抜いた藤田と住。エコール・ド・パリの寵児として、戦争美術の 牽引者として活躍した藤田と、帝大、新聞社員を経て美術界に暗躍した住は、年齢差や経歴の違いを超えて行動を共に したが、彼等にはお互いに厳しい戦後が待ち受けていた。2 人の戦中から戦後への知られざる活動に焦点を当て、ある 一つの戦後史の形を浮かびあがらせる。

第 3 回《泉鏡花と〈奈良〉―『紫障子』を読む―》 日時:7 月 15 日
講師:西尾元伸 帝塚山大学准教授

泉鏡花『紫障子』(大正 8)は、奈良を舞台とする作品です。作者の友人が大阪南地の藝妓を伴って奈良から京都をめぐった際に出会った怪異譚、という形式で書かれる作品です。実は、本作の「作者の友人」こそ、鏡花を思わせる人物 なのですが、その行程を見てみると奈良が観光地であるという要素が含まれていることに気づかされます。作中には、 汽車で停車場(ステイシヨン)に着いて、東大寺、大仏殿、興福寺などを巡るという見物の様子も描かれます。本講座 では、そのような観光の視線に映る奈良に注目しながら、そのことと作品中の怪異譚とがどのようにかかわるのかを考えてみたいと思います。

第 4 回《志賀直哉と動物》 日時:8 月 19 日
講師:吉川仁子 奈良女子大学准教授

 志賀直哉の作品にはよく動物が登場します。「犬」(『週刊朝日』 昭和3年1月2日号、執筆は昭和2年9月)では、 炎天下の奈良の町を、行方不明になった飼い犬を自転車で探しまわる「私」の姿が描かれます。今回は、この作品を含 め、志賀の作品やエッセイの中で動物の登場するものをいくつか読み、志賀が動物をどのように描き、また、動物との 関わりを通して何を描き出そうとしていたのか、考えてみたいと思います。

第 5 回《アルベール・カミュと母親ーー戯曲『誤解』を中心に》 日時:9 月 16 日
講師:東浦弘樹 関西学院大学教授

 20 世紀フランスのノーベル賞作家アルベール・カミュ(1913〜1960)は、「不条理の哲学」や「アンガージュマ ン(政治参加)の文学」で名高いが、実は彼ほど「母親」にこだわった作家はいない。カミュの作品を読み解くキーワ ードは「沈黙」と「無関心」だが、それは耳が不自由でいつも黙りこくっていたカミュの母親の沈黙、無関心からきて いる。本講座では、20年ぶりに実家に帰ってきた息子が、彼を息子と見分けられない母親と妹に殺されてしまうというカミュの戯曲『誤解』を中心に、小説『異邦人』、『ペスト』にも言及し、カミュの中にある母親イメージの変遷について語りたい。

第 6 回《吉川観方-日本文化へのまなざし》 日時:10 月14日
講師:松川綾子 奈良県立美術館

 2019 年 9 月 28 日から 11 月 17 日まで奈良県立美術館で開催する特別展「生誕 125 年没後 40 年 吉川観方- 日本文化へのまなざし」(仮称)に関連して、日本画家で風俗史研究家の吉川観方(よしかわ かんぽう 1994-1979) の活動を紹介します。吉川観方は、明治 27 年(1994)京都市で生まれ、主に風俗史研究家として活躍しました。近世から近代に至る絵画や美術工芸品などの風俗資料約 30,000 点を収集したことでも知られ、その一部は奈良県立美 術館に収められています。一方で、京都市立絵画専門学校で日本画を学び、時代風俗に取材した人物画を描いて帝展で 入選を果たすなど、日本画家としても足跡を残し、自ら収集した服飾品を用いて扮装写生会を開くなど、同時代の歴史 画や風俗画の動向に多方面から関わっています。こうした吉川の活動や作品、収集品の紹介を通じて、吉川が深い理解 と情熱を持って守り伝えようとした日本文化の魅力を改めて見つめ直していただく機会となれば幸いです。

第 7 回《森鷗外と奈良 -帝室博物館総長としての為事》 日時:11 月 18 日
講師:瀧本和成 立命館大学教授

 鷗外森林太郎は、陸軍軍医総監、陸軍省医務局長を辞した後、1917(大正 6)年帝室博物館総長兼図書頭に任命され ました。(1922 年に在職のまま逝去しています。) 在任中は、さまざまな面から改革を実践しました。本講座では、鷗外の晩年に着目し、この約 4 年間にどのような「為事」に取り組んだのか。近代文学を代表する文豪の、知られること の少ない博物館長としての側面を〈奈良〉にも焦点を当てつつ、明らかにしたいと考えています。

 

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