目次
口絵 志賀直哉「万暦赤絵」(本能寺蔵 京都)
*はじめに
* 池田小菊「ナハロフカ(無能者)」 翻刻・解説 弦巻克二・吉川仁子
*超現実と新体制と裸と 平瀬礼太
*柳宗悦と志賀直哉—民衆的工藝品と万暦赤絵— 呉谷充利
*片輪車螺鈿蒔絵手箱の流転 梁瀬 健
*時間系列の話ー時空とリズムに関する考察(一) 橋元淳一郎
編集後記
*芥川候補に名を留めた作家、池田小菊の「ナハロフカ(無能者)」は、吉川仁子・弦巻克二両氏によって、今回、脱稿の一九三二年からじつに八十数年をかぞえて塵埃から日の目を見たものである。まさに歴史の一ドラマといえる。昭和のはじめ、異国(右写真、上から2,3段)の出来事を描く一級の文学作品であろう。
が、この作品がどこか今日の世相に重なって見えてくるのは、妄想であろうか。
*「超現実と新体制と裸と」は平瀬礼太氏による寄稿である。氏は彫刻評論に独自の社会的視野をひらいている。書かれる「裸体彫像」の考察は、彫刻を通した近年の新たな文化論ともいえるもので、その展開が注目される。
*「片輪車螺鈿蒔絵手箱の流転」はこの第一級の美術品が辿った歴史の顛末であり、梁瀬健氏によるいわば追跡的記述である。名品をめぐる富者の盛衰が透けて見える。小記事ながら、この歴史の一幕は圧巻である。
*「時間系列の話 —時空とリズムに関する論考—」は橋元淳一郎氏による寄稿である。物理学、生物学、心理学、文化人類学、哲学をも含めた時間にたいする氏の考察は、ジャンルを超える誠に魅力的なテーマである。展開される思索が待ち遠しい。
* 「柳宗悦と志賀直哉—民衆的工藝品と万暦赤絵—」は、呉谷充利による。柳と志賀の同様な美的精神性について述べられている。「万暦赤絵」(右下段 写真)は志賀の身辺記である。谷崎の審美的世界にたいする志賀の日常の主題性は、柳とともに東洋的な独自のモダニズムにたどり着いていることをいう。
* 右上段の二つの写真は当時満州在住の読者から送られて来た資料の一部(転載)〜『別冊 一億人の昭和史』1980 毎日新聞発行。往時「ナハロフカ」の郷愁が伝わる。